「原発の『終活』を目指して」中嶋廉さん 報告動画
第47回震災研復興セミナー 2025年11月29日開催
「フクシマ原発事故は忘れない‼」高コストでくらし,経済を圧迫し,その上再エネ普及を妨げて,気候変動対策を後退させる。一刻も早く,原発と決別を! 中嶋廉さんは訴えます。
一度は決断した原発依存からの脱却。しかし‥‥‥‥
2011年3月11日,東日本大震災の巨大津波により,東京電力福島第一原子力発電所は全電源喪失事態に陥りました。稼働中の原子炉全ての冷却機能が失われ,炉心溶融の果てに翌12日には1号炉が,そして14日には3号炉も水素爆発を起こして建屋が吹き飛び,最悪の過酷事故に発展しました。東電推計で52京ベクレル(希ガスを除く。チェルノブイリ事故の約7分の1)に及ぶ大量の放射性物質が県境を超えて広がりました。そのため,県内外へ16万人(2012年5月)が避難を強いられ,原発事故による直接の死者こそなかったとされているものの,福島県の震災関連死は2,349人(2025年8月)と群を抜いて多く,その多くに原発避難が影響していると考えられています。
この事故の反省から,私たちは,一度は,原発に依存しない社会の実現を誓い,2030年代には原発稼働ゼロを実現するためあらゆる政策資源を投入すると決めました(「革新的エネルギー・環境戦略」2012年9月14日エネルギー・環境会議決定)。福島第一原発事故を経験した日本国民の総意に基づく決定だったはずです。
しかし,原発利権に骨の髄まで蝕まれた電力資本と「原子力ムラ」は,諦めませんでした。権謀術策の限りを尽くして原発維持に狂奔し,2025年2月の第7次エネルギー基本計画に,ついに「持続的に活用していく」と表記させました。原発回帰への再転換を成功させようとしています。
新規制基準と女川原発2号基再稼働申請
大震災当時,1号基,3号基が運転中,2号基が定期点検で停止していた東北電力女川原子力発電所は,5系統の外部電源のうち1系統を除いて喪失しましたが,干潮にも恵まれて非常用回線が津波冠水に至らず,かろうじて過酷事故を免れることができました。しかし,回復した外部電源も4月の余震時に再び喪失するなど,脆弱性が露呈することになりました。
一方,菅首相(当時)は既存原発の再稼働にはストレステストの実施が条件と表明していましたが,原子力発電を推進する資源エネルギー庁の元に規制機関である原子力安全・保安院が置かれていることが事故を招いたとの批判にさらされ,その対応が急務となりました。そこで,2012年6月,原子力規制員会設置法(環境省の外局として同委員会を設置)を成立させるとともに,同法の附則により原子炉等設置法の改正にも踏み切りました。原子力事業者に過酷事故対策を義務付けるとともに,それを盛り込んだ新たな規制基準を策定することとし,既存原発にも適合を求めたのです。また,40年の運転期間制限(規制委員会の認可を得て1回に限り20年を限度に延長可)が明記されたことも重要です。2012年7月には,東電,政府,国会事故調の報告が出揃い,同年9月に規制委員会が発足,翌2013年7月に新規制基準が施行されました。
新規制基準が施行されたことを受け,東北電力は,2012年12月,震災時に定期点検中で稼働していなかった女川原発2号基の適合性審査を申請しました。その時から,中嶋廉さんの再稼働阻止の戦いが始まりました。
宮城県における女川原発再稼働阻止の闘い
再稼働をめぐっては,電源三法交付金を餌に,嘘で塗り固めて再稼働を実現しようとする原子力事業者に対し,創意と工夫を凝らした多様な反対運動が展開されています。
- 宮城県では,福島第一原発から放出された法政性物質で汚染された廃棄物処分場建設押し付けに反対する闘いの盛り上がりを背景に,2015年の県議選挙で脱原発を目指す20名が当選したことが,大きな力となりました。
- 女川原発再稼働の是非を問う県民投票条例制定を求める直接請求は,署名数が請求に必要な有権者の2%を遥かに超え,その3倍近い111,743人(有権者比5.8%)に達しました。
- 2019年12月には,石巻市在住の17名が,過酷事故時の避難計画は杜撰で実効性がなく人格権を侵害されているとして,地元同意の差止を求めた仮処分を申請しました。避難計画の不備を理由とする同意差止を求めたのは全国でも最初のことでした。
- 2024年2月に東北電力が女川2号基使用済み燃料乾式貯蔵建設に向けて原子炉設置変更許可申請書を提出したことを受けて,乾式貯蔵施設の設置に反対する運動にも取り組みました。女川町長に設置不同意を求める署名は,2,797筆を集めました。
立地道県境の壁,個別再稼働の積み重ね,原発回帰へ
創意工夫を凝らした運動にもかかわらず,運動の広がりをつくる上では,乗り越えることが困難な構造的課題がありました。
原発再稼働は,原子力規制委員会における適合性審査を経て,地元同意を得る(UPZ内自治体の意見を聞いて立地自治体と知事による同意)という流れで進みます。そのため,再稼働阻止の運動の当面のターゲットは地元同意を阻止することになり,運動の主体は立地県と立地自治体住民が担うことになります。また,自治体には原発の規制権限はありません。ただし,避難計画の策定は自治体の役割です。そこで,避難計画の不備を問うことが運動の焦点になりました。課題を共有する各地の運動同士が連携して相互支援していますが,原発立地道県は14しかありません。立地道県を超えて運動の広がりを築くことが困難だったのです。
結果として,原発推進勢力は地方ごとに切り崩すことで原発の再稼働を着実に積み重ね,そしてついには第7次エネルギー基本計画に「持続的活用」を盛り込み,原発回帰を成功させようとしています。
「国策で進めてきたのが原発。国政の課題として正面から原発廃止を掲げて闘う時が来たのでは」女川再稼働阻止の経験を踏まえた中嶋廉さんの思いです。
脱原発に向けて多数派を築く5つの視点
中嶋さんは,次の5つの視点を呼びかけたいと考えています。
(新たな署名運動呼びかけ文案からの抜粋。抜粋はみやぎ震災研事務局)
- 原発が電気代を高くしています。
原発ゼロこそ暮らしを守り、日本経済を再生させる道であることを知らせて、希望ある未来を開きましょう。 - 原発が気候変動対策を妨害しています。
温暖化対策を妨害する原発と石炭火力発電の中止を求める行動で、地球の"沸騰"を止めましょう。 - 原発事故の危険が大きくなっています。
一日も早い運転中止を求めて、原発の危険から逃れましょう。 - 「核のごみ」を将来まで押しつけようとしています。
「核のごみ捨て場にするな」の声を挙げ,国民的論議の扉を開けましょう。 - 原発が安全保障を脅かしています。
核兵器禁止条約への参加と原発ゼロを求める声を広げて、核兵器も戦争もない世界をめざしましょう。
おもな質疑(文責:事務局)
- 柏崎刈羽,泊原発再稼働に新潟,北海道知事が合意を与える見込みになるなど,原発再稼働のへの動きが強まり,脱原発世論が押されている。まるで福島事故がなかったかのように原発回帰が進むことに危機感を感じ,みやぎ県民センター内の議論でもその流れを転換する必要が強調されている。センターも震災15年の節目にあたり,改めて市民的に討議する場を2026年4月11日に設けることにした。今日の報告の趣旨に共感するが,その趣旨を一般の市民に向けていかに平易にわかりやすく伝えていくのか,それを念頭において準備を進めたい。
- 原発過酷事故が一旦発生すれば,その影響が甚大かつ広範囲に及ぶことを東日本大震災で経験した。だが,それを踏まえたはずのエネルギー転換が無に帰そうとしている。5つの視点の重要性に異論はないが,その前提として原発事故がもたらす被害の甚大さを繰り返し訴え続ける必要はないだろうか。
- 「フクシマを忘れない」が大前提。
- 新しい2つの署名(原発ゼロをめざす署名と津島原発訴訟を支援する署名)のキックオフ集会を12月14日に開催するが,全国的な運動の呼びかけの冒頭は「フクシマを忘れない」ということになる。
- 原発被災地では15年経っても元の生活を取り戻せない人たちがものすごく多い。福島の今がどうなっているかをあらゆる集まりの冒頭において繰り返し訴え,被災地の人々の取り組みに連帯していくことが大切だ。運動を行う側の心得はそうあるべきだと考えている。
- 宮城県内の福島事故由来汚染廃棄物の処分問題に取り組んできて,宮城県に及んだ影響が県民の間で共有できていないのがもどかしい。女川原発2号基再稼働でも,当初さまざまな調査等で6〜7割の県民が反対の意思を示していた。だが,安全協定に基づく事前協議にはいっさい反映されず立地自治体の長と知事の同意へ道を開いた。UPZ内の5市町が強く抵抗すれば結果は違ったようにも思うが,5市町ではどういう動きがあったのか。
- 東海第二は最後まで再稼働できずに終わる可能性もある。UPZ内に96万人が居住し,人口が多すぎる。これだけの人が避難できるとは思えないという認識がUPZ自治体の首長にはある。最近連立を離脱した公明党県議団は以前から同党で唯一再稼働に反対していた。ひたちなか市などUPZ内首長は再稼働に非常に慎重。指摘通りUPZ内有力自治体の首長,議会が再稼働に厳しい態度で臨んでいれば止められた可能性はあった。しかし宮城県はUPZ5市町中一貫して反対していたのは加美町長だけで,他の自治体は首長,議会も県と事を構える胆力に乏しかった。
- 被害が広域化する事を共有しきれていないのもそうだが,汚染廃棄物を他県で秘密裏に処分したり,「再資源化」促進など,今後さらに被害が拡散していく危険さえ生じている。
- 5つの要求で運動進めるのもいいが,素人にはより直接的訴えが大切ではないか。一番は「原発は危険」ということ,命に関わる問題だという視点。事故が起きたらどうなるかは福島の現実が示している。くらしも地域も丸ごと失われ,政府からも見放される。危険性と事故の帰結を軸に,原発が存在していることでいかに莫大な負担と人権抑圧を強いられているか。それを庶民感覚で整理するとわかりやすい。5つはもっともだが理屈が先に立って庶民に響きにくい気がするが。
- 5つの柱を否定しないが,広めていくにはどこかに焦点を絞ったり重みづけもいる。危険性と維持することが強いる犠牲,立地自治体だけにとどまらず国民全体を蝕んでいるということを直裁的に訴えたいということか。
- 試しに署名用紙を持って訪問を始めている。住民運動は,やってみてなんぼと思っている。女川の署名も,再稼働がされた以上はやっても無駄という反応があるかと思ったが,小田の浜(女川)を訪問して14軒回り全戸から署名をもらい震えるほど感動した。住民は諦めていない。
- 新しい署名では,何かあったら危ないことは皆さん承知,東北電力は原発維持に1戸当たり500円の負担を強いていて,さらに作ればくらしを圧迫することは入りやすい。若い世代の考えを知りたかったが,年配者もCOP30の不調を心配している人がいて,将来の問題を真剣に考えているのはむしろ年配者。子どもたち,孫たちのためにと署名してくれる年金生活者が多い。
- いろんな地域に入ってこの運動で広がりが作れるのか,感触を掴みつつ進める必要があると思う。「原発のために毎月500円余分に払わされていることをご存知ですか」など切り出しやすいような単純化も運動を広げるのに重要かもしれない。
- 相手の方の関心はそれぞれ違うから,署名用紙に切り口の異なる5つの主張を掲げるのはよい。ただし,国政の争点にするという場合に,5つを等しく押し出すのか,メリハリをつけるのか,あるいは,呼びかける対象により重点の置き方を変えるのか。運動だから,経験を通して練り上げていくのは当然だが,先を見通した時の構えとしてそれを想定していくべきではないかという問題提起としてはどうか。
- 指摘の趣旨は理解している。要点は,原発を止めなければならないということを知ってほしいということに尽きる。いま用意している署名用紙には5つの情報をそれぞれ示すが,訴える相手が関心を持っていることが違っても,何かひとつに食いついてもらえるならばそれでよい。
- ただ,原発が電気代を高くしてくらしを圧迫しているということと,地球温暖化対策のためには原発を止めなければならないことをご存知ですか,ということの2つを突き出して運動化できないかという意識はある。5つを並列で進めようということではない。
- 宮城の人の場合には,福島がすぐ隣で過酷事故が起きたらどんな酷いことになるかは,感覚的にはわかっている。そのベースの上に,電気代と温暖化対策を語りかける形で広げられないかと思っている。
- 特重施設(特定重大事故等対処施設)の設置期限延長問題だが,県議会一般質問でも取り上げたい。設置期限の経過措置の期限は来年(2026年)12月だが,期限が来た時点で完成していないなら運転を停止するという組み立てになっている。そもそもその間にテロなどがあった場合に対応できないのに運転を認めたこと自体無責任だが,猶予期間内に間に合わせることができないとわかった時点で,運転は止めるべきだと主張しようと思うがいかがか。
- 大賛成。東北電力への質問書でも,特重施設について取り上げたが,一番最後では,「今すぐ運転を停止すべきと思うが,御社はどう考えますか。」とした。
- 「県としても,停止を求めよ」と主張したい。また,この間のさまざまなトラブルについて,その都度質問してきたが,県の答弁は電力の受け売りでしかない。電力はこう言っている,こう聞いている,ということでしかなく,県としてどう評価して電力にどうものを言うかとう姿勢が欠如している。環境調査測定技術会傍聴メモにもあるように,かつて設置されていた安全性検討会のような,専門家も加えた検討の場を設置することが不可欠と思う。それを求めていく上で詰めに必要なポイントがあればアドバイスを。
- その止めは,公募の委員を加えろということだと思う。
- 11月28日午後に環境保全監視協議会があったので傍聴した。8月25日の協議会で水素濃度検出器の問題に噛みついた先生が,その続きをするのかと期待して行ったのだが,全く発言がなかった。11月13日の調査測定技術会では,岩崎名誉教授が東北電力の考えをまとめて説明すること,県が電力の言いなりでなく,県としての見解を次の会議までまとめて示すべきだと発言したが,昨日の協議会ではだれもそれをフォローする議論をしない。県が選んだ専門家の先生は,忖度が働くことも否定できず,結果として一貫性を欠くことになる。
- 県民の安全を守る立場で遠慮せずに系統的に発言できる人が委員の中にいるかいないかで第三者委員会が果たせる役割は全く違ってくる。新潟の技術委員会もいろいろな立場の人が入ってやっと本格的な役割も果たせるようになり,信頼も得るようになった。宮城県も既存の技術会でも協議会でもどちらでも良いが,公募の委員を2名入れるということがポイントではないか。
講演レジメもここからダウンロードできます。
原発の「終活」をめざす 女川原発再稼働阻止をめざしてきた運動をふりかえって(改訂版)(当日報告でしようした資料から一部変更されています)
原発ゼロの希望ある未来をめざす2つの署名にご協力ください(クリックするとWord文書,22Stop_Nukepower22call_for_signatures.docxがダウンロードされます。呼びかけ文案で,確定したものではありません)