みやぎ震災復興研究センター

公益財団法人「都道府県センター」の振る舞いと県の対応について思うこと

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最近,公益財団法人「都道府県センター」の振る舞いについて不快に思うことが相次いでいる。被災県に優越して被災者生活再建支援事業を差配するのは許し難い。
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遠州 尋美

みやぎ震災研事務局長
工学博士
元大阪経済大学教授

 最近,公益財団法人「都道府県センター」(以下単に「都道府県センター」)の振る舞いについて不快に思うことが相次いでいる。

 一つは,東日本大震災被災者向け被災者生活再建支援金(加算支援金)の申請受付終了をめぐり,被災県である宮城県や岩手県に優越して,一介の財団法人である都道府県センターが継続,打ち切りの判断を事実上行い,そして差配するが如き振る舞いが行われた。これは,単なる風聞の類ではなく,県が,一昨年度末に,受付の継続をめぐって被災自治体に送りつけた再延長を実施する通知に明記されている。宮城県の総務部長が市町村長宛に令和2年1月31日づけで発出したれっきとした公文書である。

東日本大震災に係る被災者生活再建支援金(加算支援金)の申請期間の再延長について(通知)

被災者生活再建支援法関連業務の推進につきましては,日頃格別の御協力を賜り厚くお礼申し上げます。

このことについては,公益財団法人都道府県センターとの協議を継続しているところですが,同センターから,令和2年4月1 0日以降の再延長について,最後の延長とすることを条件として, 1 年間に限って認めるとの見解が示されました。

つきましては,同センターが示した条件を御承知いただける場合は,別紙を参考の上,その旨を市町村長名の公文書(公印省略不可)により下記期限までに御提出くださるようお願いします。

なお,期限までに御提出いただけない場合は,再延長は認められないこととなりますので,御承知願います。

1 提出期限:令和2年2月6日
2 提出様式:別添様式(参考)

宮城県総務部長発市町村長宛通知(消第1 0 9 5 号)

 要するに,都道府県センターが,加算支援金申請受付は2020年限りで打ち切るという条件付きで再延長を認める意向を示し,県は,各自治体にその同意を迫る文書を送ったのである。しかも念書をとるという執拗さだ。(県の態度も大問題と思うのだが,それは,後段で述べる)

 都道府県センターは,前身が「都道府県会館」で,1948年に全国知事会の前身である全国地方自治協議会連合会が購入したビル(初代都道府県会館)を管理するために設立した財団法人である。その後,都道府県有建物の火災共催事業を担ってきたが,被災者生活再建支援法が成立したのち,同法第6条に基づき,支援金事業の事務を担う被災者生活再建支援法人(以下,支援法人)となった。総理大臣の指定を受けその監督に服する支援法人とはいえ,被災者生活再建支援金事業は,災害被災者の生活再建,とりわけ居住確保を支援するために,都道府県が都道府県税収入から資金を拠出して行う互助的事業である。国の資金は入っているものの,あくまで国は都道府県の互助的事業を支援するという建て付けであり,国はその姿勢を崩していない。国会での質疑においても,担当大臣は,被災県が運用の主体であって,「県内の被災者の状況を踏まえて,県において適切に判断されるものと思っております」という答弁を繰り返してきた。だから,交付の実務は都道府県センターが担うとしても,申請受付期限の延長を判断する権限があるはずもない。県こそが支援金原資の出資者であり,しかも,被災者の状況を把握し判断できるのは,被災自治体の意向を受けた県である。「2020年限りで打ち切るという条件付きで再延長を認める」などというのは,明らかな越権行為と言わなければならい。

 二つ目は,先日最高裁で敗訴が確定してしまった,太白区茂庭台のマンションの支援金返還問題訴訟の問題である。当該マンションは,当初の罹災判定で大規模半壊の判定を得て,加算支援金の支給が行われたが,仙台市が職権でかってに再判定を行って,判定を一部損壊に引き下げたことにより,都道府県センターが既に支払った支援金の返還を求めたのである。過去の判例では,被災者が虚偽の申請をしたなど,被災者の責めに帰する原因によって受給したなどの場合でなければ返還を求められることはないという判断だった。東京高裁は,仙台市が建築士を同行して職権で再判定し,判定を引き下げたことは適法であるとしたものの,支援金は被災者の生活再建に役立てるために迅速に支給すべきものであり,受給者が受けとった支援金を生活再建のために直ちに消費するのは,法の趣旨から当然であって,その返還を迫るのは法の意義を著しく減じることになるとして,被災者勝訴の判断を行なった。だが,最高裁はそれを覆したのである。最高裁の判決の詳細をみてはいないので,その問題点をここで述べることはしない。また,被災者からの求めも無しに,職権で再判定を行うなどは,過去の罹災判定のあり方から逸脱するもので,仙台市の落ち度も問題だが,これもここでの主題ではない。

 問題は,返還を求めた都道府県センターの姿勢である。上述したように,被災者再建支援金は,住宅を失った災害被災者の速やかな生活再建を実現するために,阪神・淡路大震災後に議員立法で創設されたものであるが,数度の改正を経て,当初はあった所得や使徒の要件などを除外し,使徒を問うことなく渡し切りになった。金額の低さや,被災者の多くを占める一部損壊が対象とならないなどの問題はあるが,所得申告の必要がなく,差し押さえもできないなどもあって,被災者の迅速な生活再建において重要な役割を担ってきた。だが,罹災証明にしたがって適正に申請して受領しても,のちに自治体が勝手に罹災判定をやり直して,その結果支援金の返還を求められる。しかも裁判で戦って負けると高額な延滞利息さえ請求されるとなれば,安心して支援金を使うことができなくなる。支援金事業の根幹に関わる大問題だ。支援金事業の趣旨を正しく理解していたなら,支援金事業を崩壊の危機に追い込む返還請求を,支援金事業の事務を担うべき支援法人が行うなどは,常軌を逸する行動だと言わなければならい。

 聞くところによると,都道府県センターの幹部職員は,国からの出向者だという。国の補助金配分や制度設計,許認可の権限振りかざして地方を従わせてきた癖が抜けないのだろう。本省職員が本省所管の国庫補助事業について,あれこれ言うのはありうることである。だが,出向先でまで,委託事業なのに,委託者に対してその運用にまで口出しして差配するのは,繰り返しになるが異常である。一方,本省所管の国の事業であり,補助金の使用に不適切なことがあれば,交付先に返還を求めることは当然ある。だが,それは,あくまで補助金の受領者に落ち度がある場合だ。落ち度がなければ,落ち度のあった者に請求するのが筋だ。茂庭台のマンションの場合,落ち度があったのは職権で罹災判定をやり直し,勝手に変更した仙台市だ。被災者に不当な負担を強いるのではなく当初「誤った」(と称している)罹災証明を交付した仙台市に請求すべきであったろう。

 一方,こうした理不尽な都道府県センターの横暴に唯々諾々と従っている宮城県も情けない。さらに,それを盾に,市町村に念書まで要求して,市町村を従わせたのは,逆の意味で噴飯物だ。ここで,2021年度以降の加算金受付再延長を断念を受け入れさせた念書の雛形も引用しておこう。ほとんどの自治体は,文面もほとんど同じ文書を提出してこれに従った。

宮城県知事あて
                         市町村長 〇〇 〇〇

東日本大震災に係る被災者生活再建支援金の申請期間の再延長について(依頼)

このことについては,先に加算支援金に係る再延長を依頼していたところですが,令和2年1月31日付け消第1095号で通知された再延長の条件等について,今回を最後の延長とすることを承知し,引き続き,未申請世帯の解消に向けて,しつかりと取り組んでまいりますので,改めて1 年間の再延長をお願いします。

 本来,県が判断の主体であるべき事項について,都道県センターから主権を犯されながら何の抵抗もせず,一方,地方自治法上同格であるはずの市町村には,居丈高に念書を取って従わせる。地方自治体間の協力関係を損ね,遺恨を残すことになりかねない。県は襟を正して欲しいものだ。支援金返金問題も然り。被災者再建支援制度の根幹を揺るがす,支援金返還請求には,県が防波堤になって跳ね除けて欲しいと思う。

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