住宅復興の教訓
東日本大震災の復興検証
論点3:人よりまちを優先
——住まい再建の遅れと被災者離散
東日本大震災では,自助・共助依存の居住確保支援スキームの限界が再び露呈した。住家被害のうち全壊,全流出などの最も深刻な被害(滅失相当被災)の大半が巨大津波によるものであり,福島第一原発事故によって,長期の避難を強いられる事態も発生した。住まいの復興に先んじて安全な「まち」の再建が最優先課題となり,長期間の面的整備によって,住宅再建が遅れ仮設居住も長期化した。仮設住宅の解消には,阪神・淡路大震災の5年の2倍,最長10年を要することになった。
大規模面的整備による住まい再建の遅れは,被災者を離散させた。防災集団移転事業への参加者は移転世帯の3分の1にとどまり,自力再建者のくらしの実態を把握するすべがない。
論点4:滅失相当被災における居住確保状況
被災3県における被災者再建支援金(基礎)の支給件数は19万世帯を超えた。この支給件数をベースに滅失相当被災における居住確保状況を推測することができる(次表)。
①持ち家の再建
地形,面的整備,民間住宅ストックに左右される。岩手県は面的整備に依存した建設・購入が多く,修復は少ない。対照的に宮城県は修復が建設購入を上回り,面的整備の依存度は低い。福島県では滅失相当被災の多くを原発避難者が占め,建設・購入は岩手県に匹敵するが,面的整備依存度は低く補修も少ない。
②持ち家の再建を断念した場合
民間住宅のストックが豊富な宮城県は,災害公営住宅入居を民間賃貸住宅への入居が上回ったが,岩手県,福島県では災害公営住宅入居が民間賃貸住宅入居を圧倒した。
居住の確保は生活再建とは同義ではない
災害公営住宅の収入超過者問題や、コミュニティ維持の危機に直面している災害公営住宅や小規模防集団地も少なくない。
論点5:埋もれた半壊以下の被災者の実態
国の支援から排除される半壊以下の被災者
「半壊」「一部損壊」と判定された被災者は,国の支援から取り残された。半壊世帯は応急修理の対象となったが一部損壊では皆無だった。居住が確保されていると判断され,「居住確保支援」の対象外とされたのである。応急修理や補修加算支援金で破損住宅の損害額を賄うことは不可能で,未補修被災住宅に住み続ける在宅被災者の発生は必然だった。
地方独自支援も届かない
「取り崩し型復興基金」を活用した地方独自の住宅再建支援が実施された。ただし、主に被災者再建支援法の不足を補い宅地被害や擁壁、嵩上げの補助を行うもの(岩手県)や、防集による移転再建と自力再建との支援格差を埋めるもので(宮城県)、住宅滅失被災者を対象としている。一部自治体は、半壊世帯の住宅補修にも拡大したが、結局、独自支援であっても一部損壊世帯は支援の対象から排除された。
支援の対象にならず支援実績としてカウントされなければ、その被災者の状態を把握する術がない。支援格差は災害弱者の実態を社会の目から覆い隠す。それが最も大きな問題である。
論点6:東日本大震災復興における前進面
サマーセミナーの報告では,東日本大震災の前進面にも時間を割いた。次表にその要点をまとめ詳細な説明は省略する。
日本住宅会議サマーセミナー2024