みやぎ震災復興研究センター

日本住宅会議サマーセミナー2024
東日本大震災における住まいの復興検証(4)

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「多発する大災害を教訓とした被災者の住まい・生活復興対策」をテーマとする日本住宅会議サマーセミナー2024が,9月1日,オンラインで開催された。
私の報告のエッセンスと,質疑応答のうち,参加者以外の方に知っていただきたい点について,簡単に紹介する。
この記事はその第4回目。質疑応答について紹介する。
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遠州 尋美

みやぎ震災研事務局長
工学博士
元大阪経済大学教授

質疑応答セッション

司会者を含め3人の参加者から5点の質問を受けた。私自身は,質問と自分の回答の録音データを保持していないため,質問の意図を正しく理解し,適切に応答していない恐れもある。そこで,ここで紹介する質問は,私自身が受け止めた質問内容への理解であり,また,応答もその理解を前提としたものである。そのため,あえて質問者のお名前はここに記さなかった。非礼を働く意図はないのでご容赦いただきたい。なお,応答内における()書きの挿入は,当日筆者が実際に発言しなかったが,補足することが適切と考える内容である。

質問1:過剰復興を防ぐには

かつてない規模の復興まちづくりが展開され,住まいの再建が後回しになったことにより,仮設住宅居住の解消に10年を要するとともに,住まい再建の遅れが被災者の離散を促したことが報告された。それにとどまらず,莫大な費用を投じて作られや復興市街地や復興住宅には空き地,空き家が目立つことも指摘されている。災害が多発し,南海トラフ地震なども懸念される中で,そのような結果を再び生じさせないためには,何が必要か。東日本大震災の経験も踏まえて,報告者の見解を求めたい。

事前減災,事前防災の取り組みが重要になると思う。(過剰復興をもたらした最大の原因は,過大な復興財源フレームにある。累次の見直し経て最終的に32兆円に膨らんだ復興財源フレームが,ゼネコンの暗躍と惨事便乗型巨大事業の展開を許した。それに対抗して過剰復興に踊らされないためには,)事前に発生するであろう被害を想定し,それに基づいて必要となる,仮設住宅,災害公営住宅,復興まちづくり事業の規模を予測し,地形や環境条件を踏まえて,もっとも効果的に(かつ財政的と環境に調和するように)実現する計画を市民参加,コミュニティベースで定めて,準備することが必要だと思う。シミュレーション技術の進歩で,かなりの精度で被災規模を予測することは可能なので,それに取り組むことを期待したい。(ただし,その前提となるのが人口フレームを適切に定めることだ。人口は想定通りに変動するとは限らないが,変動の要因を正しく理解し減少を抑止する施策を適切に講じつつ,定期的に検証・見直しを欠かさないことが必要だ。)

質問2:多様な住まいに関わる支援制度を被災者の周知するには

報告を聞くと,不十分ではあっても,被災状況や復旧・復興の進展に応じた様々な支援制度が用意されているが,被災者がそれを知らなければ,活用されない。高齢で孤立した被災者にそれらの制度の周知をはかるにはどうしたらよいか。

役所に座って,申請を待つ申請主義では適切に活用されるはずはない。被災者のもとにアウトリーチして情報をとどけ,被災者の要望を聞き取って適切に支援制度につなげる災害ケースマネジメントの展開が不可欠だ。(ただし,注意したいのは,単線型支援なために,ある支援制度を一旦申請して適用されると,それが足枷になって,却って生活再建に支障をきたすこともある。)被災者に届けさえすれば良いわけではなく,支援者が寄り添って被災者とともに考え,最後まで継続的に支援することが必要だ。すでに,日弁連が作成・公表している,「被災者生活再建支援ノート」などのツールもあるので,ぜひ,活用してほしい。

質問3:ストック活用による住まい確保支援は,能登被災者の住み方にマッチするか

修復補助付き借上げシェアハウス型応急住宅制度の提案は興味深いが,能登の伝統住宅の実態にそぐわない危惧もある。能登の伝統住宅は規模が大きく,四間あるいは六間(座敷数)の住宅平面は現代の居住生活にマッチせず使い勝手が悪い。しかし,現代のくらしに合わせて改装するのも費用がかかるから,増築して,増築部分に居住してことが多い。そういう住宅を修復改装して多世帯用に使うことが所有者の同意を得ることができるのか。したがって提案のように運用するするには,私有財産のままでは困難で,社会的所有も考えなければ難しいと思うがどうか。

ご指摘は勉強になった。確かにこの点は,机上での発想で,そのまま実現できると考えるのは安易だと思う。しかし,そういう発想も視野に入れてほしいという提案だ。地域の住宅の損壊状態はもちろん,その住み方をよく知る方や,建築の専門家,そしてご指摘の通り財産管理の問題が重要なので,法律の専門家などを交えて,制度設計をしっかり行う必要があると思う。私の提案をきっかけに,そのような取り組みが進展することを期待したい。

質問4:収入超過者問題に対する自治体対応の普遍性

① 入居収入基準の引き上げ

岩手県が,災害公営住宅の入居収入基準を法定限度額の29.8万円まで引き上げたとあるが,これは,国交省も容認しているのか。自治体が独自の判断で自由にやれることなのか。

2011年の政令改正で,入居収入基準は条例に委任されることになった。従来,国が定めていた,入居収入基準,政令月収15万8千円(収入分位25%)は参酌標準となり,自治体は条例で法定限度である政令月収25万9千円(収入分位50%)以下で自由に定めることができるようになった(ただし,国の家賃対策補助は,入居収入基準を政令月収25万9千円まで引き上げた場合であっても,同21万4千円(収入分位40%)以下の世帯数に限定)。したがって,その決定に対し国がダメだしすることはない。(特に居住確保が必要となる世帯として条例で定めた世帯(いわゆる裁量階層)の家賃は,それ以外の世帯(本来世帯)の入居収入基準から25万9千円以下の範囲で定めることが可能。)

② 「みなし特公賃」としての運用

陸前高田市が導入した「みなし特公賃」とはどういうことか。災害公営住宅を特公賃に変更したということなのか。それは,他の自治体でもできるのか。国交省からクレームが入ることはないのか。

「みなし特公賃」とは,公営住宅の住戸を中所得者向けの特定公的賃貸住宅として運用することで,その結果,政令月収48万7千円(収入分位80%)までの世帯が入居可能となる。公営住宅法第第45条に,社会福祉施設とともに特定優良賃貸住宅(自治体が運用するときは特定公的賃貸住宅と読み替える)として(国交大臣の承認を得て)目的外使用ができると定められている。もちろん「公営住宅の適正かつ合理的な管理に著しい支障のない範囲内で」という但し書きがある。通常,支障がないとは,空き家が発生して,その募集倍率が低い状態であることを指すが,陸前高田の復興住宅は空き家が多く発生しているという事実はないので,自治体に強い意志があれば,国交相は同意するということだと思う。大事なことは,市民の支持を得ていることと自治体の強い意志だと考える。(2011年の地方分権一括法で,自治体の裁量が拡大され,国からの通知も自治体を縛るものではなく,原則,技術的助言となった。支障があるかないかも,設置者の判断が優先されることになると考えられる。例えば,国は,公営住宅入居に保証人は不要との立場をとっているが,強制はできず,自治体によって対応が分かれている,)

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