みやぎ震災復興研究センター

2024/4/9 財政審財政制度分科会の問題意識をどのように理解すべきか(2)

能登地震復興との関わりで

白米千枚田に沈む夕日
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遠州尋美

みやぎ震災復興研究センター・事務局長(gmail登録)

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財政審分科会による問題提起の論点

財政審分科会の審議の流れを辿ると,財政審分科会が供給力不足を懸念しているのは,実は,建設業だけにはとどまらない。懸念しているのは,以下の7点だ。

  1.  主要国を上回る⽣産年齢⼈⼝の急激な縮退(⾼齢化と⼈⼝減少,p4)
  2.   潜在成⻑⼒低迷(p5)
  3.   積極財政(債務増加)が経済成⻑とリンクしない(p6)
  4.  主要国を上回る⺠間投資の低迷(魅⼒ある投資先がない,p13)
  5.  実質賃⾦低迷と労働市場硬直化(p14)
  6.  産業分野への過剰な財政⽀援やODAへの警戒感(世界経済の断⽚化の懸念,pp20-25)
  7. ⼈⼝減少の地域的不均衡とインフラ整備の費⽤便益低下(pp28-31)

以下,それぞれについて,資料スライドも参照しながら簡単に見ておこう。

① 主要国を上回る⽣産年齢⼈⼝の急激な縮退(⾼齢化と⼈⼝減少,p4)

特に生産年齢人口率は,すでに,主要国(米国,英国,フランス,ドイツ,日本)で最下位だが,2030年ごろから急激に低下する。人口減少トレンドと高齢化に歯止めがかからないことは深刻だ。

② 低迷する潜在成長力

生産年齢人口の減少は,当然就業者数に反映する。東日本大震災後の数年間は回復基調にあったが,近年は頭打ちとなっている。1990年代半ばからの長期トレンドである横ばい傾向は変わらない。潜在成長率も浮き沈みはあるが,2000年代以降の低迷は否定できない。

③ 積極財政(債務増加)が経済成長とリンクしない

この間,積極的な財政運営によって,日本はOECD諸国の中でも突出して政府債務を増大させてきた。しかし,それが経済成長に結実してきたとは言い難い。OECD諸国全体の傾向を見ても政府債務,すなわち税収を上まわる政府支出の累積と実質成長率は相関しない。財政審分科会の表現は政権に忖度してか控えめだが,散布図からは,むしろ逆相関の傾向さえ読み取れる。資源は有限である以上,筆者は,経済政策の成功を経済成長で図る考え方に与しないが,主流派経済学にとっては容認し難い難い状況であろう。

④ 主要国を上回る民間投資の低迷

長年,日本はデフレに苦しんできた。その悪影響が端的に現れているのが,民間投資の低迷である。日本国民の貯蓄率の高さが政府債務の増加を可能とし,また,企業の内部留保が,無借金経営の基盤となるなど,むしろ日本的経営のストロングポイントとみなされたこともある。しかし,ここにきて資本の回転率が顕著に低下していることが,財政審分科会の懸念を強める要因になったようだ。かつては,主要国の中でも優位にあった資本の回転率がついに最下位になったのである。一般にはあまり馴染みがないが,「資本ヴィンテージ」は回転率の裏返しであり,それが長いほど再投資されるまで時間がかかっていることを示している。すなわち,魅力的な投資先に乏しいのである。

⑤ 実質賃⾦低迷と労働市場硬直化

財政審分科会は,労働市場の硬直化が実質賃金の低迷を招いているとの認識のようだ。根拠は,右側の散布図だ。労働移動の円滑さと実質賃金上昇率が正相関していると言いたいようだ。この間,政府は労働市場の流動性を高め,より労働生産性の高い高付加価値分野に就労構造をシフトさせると称して,規制緩和を進め,正規労働の縮小と非正規労働の拡大を推し進めてきた。右側の散布図は,労働市場の規制緩和が,労働市場の硬直化を解消せず,実質賃金上昇にもなんら貢献しなかった証拠ではないのか。しかし,いずれにしろ,財政審分科会の立場からは,焦燥を強める要因なのであろう。

⑥ 産業分野への過剰な財政⽀援やODAへの警戒感

産業分野への過剰な補助金やODAについての危機感も滲み出ている。特に半導体分野への過剰な補助金はには,「国力を前提にすると……主要国と比較しても突出」となかなか辛辣だ。さらに,コロナ感染症や極端な円安の進行によって強いられた側面もあり,ここ2〜3年の産業分野への補助金は極端に増加している。これら産業分野への戦略的財政支援の評価については,両論併記ながら,財政審分科会の真意は,IMFや世銀等の自由貿易主義者らによる政府介入が招く「世界経済断片化への懸念」に共感を示したものであろうと思う。

⑦ ⼈⼝減少の地域的不均衡とインフラ整備の費⽤便益低下

一方,人口減少トレンドは,日本中どこでも一様に進行するわけではない。当然に,人口推移は雇用と連動する。すなわち,自然の趨勢に任せる限り,必然的に地域格差は拡大することになる。都市部への居住指向が強いのは,教育機会を求める若年層か,雇用機会を求める子育て世代だから,人口減少の進む過疎地ほど高齢化率も当然高くなる。人口密度が低下すれば,インフラ整備の費用便益効果も低下するのは必然だ。結局,地域格差の拡大を与件として費用便益を追求する限り,「立地適正化」「集約化」「コンパクト化」に行き着くのは必然だ。

ただし,「立地適正化」「集約化」インフラ「コンパクト化」は,人口減少トレンドをさらに加速するだけであって,私たちが直面する問題の根本的解決には結びつかないことはあきらかである。

「2024/4/9 財政審財政制度分科会の問題意識をどのように理解すべきか(3)」に続く

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