みやぎ震災復興研究センター

2024/4/9 財政審財政制度分科会の問題意識をどのように理解すべきか(1)能登地震復興との関わりで
白米千枚田に沈む夕日
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遠州尋美

みやぎ震災復興研究センター・事務局長(gmail登録)

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財政審分科会が示した能登地震復興における集約化方針

2024年4月9日に開催された財政制度審議会(財政審)財政制度分科会は,能登半島地震復興に関し,膨大なインフラ被害が生じたことを踏まえ,国直轄権限代行活用など機動的な復旧・復興を進める必要があるとしながら,他方で,被災地が人口減少局面にある中で,将来の需要減少や維持管理コストも念頭において,集約的なまちづくりやインフラ整備のあり方を含めて,十分な検討が必要と強調した。

馳石川県知事が直ちに不快感を表明したように,この唐突とも言える財政審の問題提起は,復旧の遅れに不安と苛立ちを強めていた能登半島地震被災地と関係者の感情を逆撫でし,波紋を掻き立てた。

東日本大震災復興を過剰復興に導いた国の制度設計

財政審分科会の問題提起がその根拠としたのは,東日本大震災復興において,土地区画整理事業地の土地活用率が,全体として7割程度まで進んだものの,いくつかの地区では3割程度にとどまっているということである。

東日本大震災復興の市民的検証に取り組んできた私たちも,「創造的復興」の掛け声のもとに,大震災復興が巨大土木事業に傾斜し,惨事便乗型,開発指向型復興に陥ったことは,被災者,被災地の視点で見ても大きな問題を孕むものであったことを批判してきた。しかしながら,それを招来させた復興枠組みを築いたのは国である。すなわち,

  • 復興基本方針は,「国は,復興の基本方針を示しつつ,(中略)財政,人材,ノウハウ等の面から必要な制度設計や支援を責任を持って実施する」と制度設計は国が行うことを明確に述べている。
  • 復興構想会議は,復興7原則で「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。」(原則5)と復興事業費の流用,国家レベルでの惨事便乗に道を開いたが,復興基本法は,「東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的」とする定めてそれを追認した。
  • 被害額を過剰に見積もり(16.9兆円。阪神・淡路の1.7倍),復興基本方針で復興経費を当初5年間に少なくとも19兆円,10年間で23兆円と見積もり,それを前提に,税外収入(歳出削減と国有再建売却)と復興債で調達し,復興増税で償還する国丸抱えの復興財政スキームを築いた(復興財源確保法)。※ 復興財源フレームは累次の見直しにより15年間で32.9兆円に膨張。
  • 東日本大震災在特法で,激甚災法からさらに復旧・復興事業の国費率を引き上げるとともに復興交付金事業を創設。地方負担分も震災復興特別交付税(震災特交)で全額国費で(のちに一部地方負担を導入)。
  • 国交省直轄によるパターン調査を梃子に,規制緩和,特例措置により防災集団移転促進事業(防集),土地区画整理事業,津波復興拠点整備事業の主要3事業の大規模な展開に意図的に誘導した(事業ありき復興)。

その検証と総括,災害復興法制度の抜本的再構築を行うことなく,東日本大震災以後の災害被災地に犠牲と負担を強いるのは,全くの筋違いである。

財政審分科会が恐れていること
——クラウディングアウト

財政審分科会が,能登地震復興の「集約化」とインフラ「コンパクト化」と被災地の感情を逆撫でまでしてまで,公共事業抑制の強い意欲を表明した真意は,上に引用したスライドの3枚後で明かされている。建設設計労務単価の急騰が民間投資を抑制することへの危惧だ。

財政審分科会資料スライド35ページ右下の棒グラフが示すように,東日本大震災復興が本格化した2013年度(H23)以降,公共工事設計労務単価が鰻登りに増加している。東日本大震災復興に加え,安倍内閣が復興オリンピックなどと東京オリンピック開催を煽り立てたのだからたまらない。災害公営住宅の建設費が急上昇し,それが,上限家賃(近傍同種家賃)を極限にまで押し上げ,入居者を退去に追い込む災害公営住宅収入超過者問題の直接の原因になった。大震災被災者支援に取り組む私たちも煮湯をのまされた。

しかも,財政出動による公共事業の拡大とは裏腹に,公共事業を担う建設業が縮退するトレンドにあるのだから始末が悪い。要はアベノミクスによるハコモノ回帰と供給力不足のダブルパンチで,建設設計労務単価が民間投資を圧迫するクラウディングアウトの発生を恐れているのだ。

「2024/4/9 財政審財政制度分科会の問題意識をどのように理解すべきか(2)」に続く

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