みやぎ震災復興研究センター

緊急アピール

能登地震及び豪雨災害
多重被災者への
人間らしいくらしの保障を求める

令和6(2024)年10月13日

呼びかけ人(50音順)

阿部重憲(新建築家技術者集団宮城支部)

糸長浩司(元日本大学教授/NPOエコロジーアーキスケープ理事長)

遠州尋美(みやぎ震災復興研究センター事務局長)(本アピール事務局・問い合わせ先)

岡田知弘(京都大学名誉教授)

小川静治(東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター事務局長)  

塩崎賢明(神戸大学名誉教授・みやぎ震災復興研究センター顧問/兵庫県震災復興研究センター共同代表)

鈴木 浩(福島大学名誉教授/元福島県復興ビジョン検討委員会座長)

田中純一(北陸学院大学教授)

高林秀明(熊本学園大学教授)

千代崎一夫(全国災対連世話人/住まいとまちづくりコープ代表)

出口俊一(兵庫県震災復興研究センター事務局長)   

寺西俊一(一橋大学名誉教授/日本環境会会議理事長)

長谷川公一(尚絅学院大学特任教授・みやぎ震災復興研究センター副代表)

増田 聡(帝京大学教授/東北大学大学院教授)

丸谷博男 (新建築家技術者集団能登半島地震復興支援本部長)

村井雅清(被災地NPO協働センター顧問)

 能登半島地震からの復旧・復興半ばにして豪雨災害に見舞われたみなさま、心からお見舞い申し上げます。多重被災の苦しみから、一日も早く、くらしとなりわいの再建がかないますことを心よりお祈り申し上げます。

 私たちは、令和6(2024)年4月4日、「被災者主体の復興の道をめざして」と題する緊急アピールを発表し、概略、以下の4項目の実現を求めました。

① 期限を区切ることなく、被災者がくらしとなりわいを取り戻すまで、支援を継続すること。

② 人間らしい暮らしに必要な支援については災害救助法の適用基準を抜本的に改め、罹災判定や前例にとらわれることなく万全の支援を行うこと。

③ 全ての被災者にアウトリーチして被災者の声に耳を傾け、寄り添いつつ、くらしの維持、再建にかかわる情報を届け、分散した被災者間のコミュニケーションを取り持つ伴走型システムの構築を早急に実現すること。

④ 被災された方々が、再び住み慣れた土地に戻り平穏な生活を取り戻すことが何よりも重要であるとしても、実際に戻るかどうかは被災者自身が選択すべきものであり、その選択にかかわらず万全の支援をおこなうこと。

 4月の私たちのアピールは、10日余りで200名近い賛同を得て、政府、石川県、国政政党にお送りしました。

 しかし、私たちの願い、被災者のみなさんの復旧・復興への地道な取り組みにもかかわらず、復旧・復興は多くの人々が期待しているようには進まず、過酷な避難生活で関連死なさる方や後遺障害に苦しめられる方が増え続けてきたことは極めて遺憾です。9月に入っても、建設型応急住宅の完成戸数が計画の9割に達したものの、依然としておよそ2,800名が避難所等に滞在し、水道が復旧していない住戸も1,000戸を超える状況が続いていました。

 そこを襲ったのが、記録的な集中豪雨災害でした。とりわけ深刻だったことは、他に利用可能な敷地がないという理由の元に、浸水想定エリア内に相当数の建設型応急住宅を建設したことにより、ようやくにして避難所生活を脱し生活再建への一歩を歩み始めたかに思われた多数の震災被災者が、床上浸水被害によって、避難所生活に逆戻りすることになったことです。 自治体自ら作成した浸水想定エリア内に供給した仮設住宅入居によって被災したことは、行政の過誤と言うほかはなく、まさしく「復興災害」と言わざるをえません。震災後は気丈に災害に向き合っていた被災者からも、「心が折れた!」「どうすればいいのか?」と言う悲痛な叫びが寄せられています。

 深刻なのは、浸水被害だけではありません。震災時には多数の土砂災害が発生しましたが、豪雨によってさらに崩落の拡大が発生し、土砂の流入で命を落とされた犠牲者も確認されています。土砂災害発生箇所が過去に地滑りを起こした痕跡である「地滑り地形」に集中したことは、様々な調査機関の報告によって明らかになっており、今回ほどの豪雨でなくとも、今後も起こりうる豪雨よりさらなる被害の拡大が強く懸念されます。

 能登半島地震と豪雨災害による被害は、短期間に複合して発生した多重被災にほかなりません。しかし、政府や石川県の多重被災者支援は極めて不適切であるばかりか、新たな命の危険にさらすものと言わざるをえません。とりわけ、9月29日に県が浸水仮設住宅から避難した人々を対象に非公開で開催した説明会において、別地点に再整備は行なわず、浸水対策を行うことなく修復・消毒後に再入居させると説明し、知事も記者会見でそれを確認したことは、多重被災者のみならず、1月1日の震災発生以来、復旧・復興に向けて懸命の努力を重ねてきた全ての被災者と全ての支援者の希望を奪う暴挙以外のなにものでもありません。

 私たちは、国、県に、能登半島地震からの復興を加速させるために万全の取り組みを行うことを、改めて、要望するとともに、地震、豪雨の多重被災者に「人間らしいくらしの復興」を実現し、保障することに的を絞って、以下の点を緊急に求めます。

(1)浸水想定エリアや土砂災害危険区域以外の安全な場所に建設型応急住宅を整備して多重被災者の安全安心を保障するとともに、人間としての尊厳を維持して避難生活を送ることができるように万全な支援を約束してください。

 浸水や土砂流入などによって避難を余儀なくされた被災者に、被災住宅に戻ることを強いることは、多重被災者が、PTSDをはじめ、抑うつ状況に陥る危険を増大させることは明らかです。清掃と消毒を徹底しても、カビや悪臭の発生を防ぐことは極めて困難です。国、自治体の対応が、心身の健康を悪化させ、万が一にも関連死の原因をもたらすようなことがあってはなりません。気象災害の激甚化と頻発を鑑みれば、浸水想定エリアや土砂災害危険区域での居住を強いることは無謀です。費用や日数を要したとしても、建設型応急住宅を安全な場所に再整備して、多重被災者の安全安心を保障することは、国、自治体、そして国民の責務であると考えます。

 他方、震災に続き豪雨でも被災した多重被災者の避難所生活が長期化することは、被災者にとって耐え難いことであることは間違いありません。しかし、希望のある避難所生活を送ることができるのなら、それは希望のない仮設住宅入居にまさると考えます。4月に発生した台湾花蓮地震における迅速な避難所開設と手厚い被災者支援、そして対照的な能登半島地震被災者支援の実態、両者の対比が明らかにしたように、日本の避難所及び被災者支援の貧困さは国際的に見ても恥ずべきものです。台湾の取り組みが示す通り、その抜本的改善は可能かつ喫緊の課題です。今回の多重被災の発生を契機に、人間としての尊厳を維持して避難生活を送ることができるように、被災者支援の抜本的改革に、国を挙げて取り組むことを強く求めます。

(2)石川県は被災者・被災地支援ボランティアを管理する姿勢を改め、ボランティアの自主性・主体性・共同性、そして学術的職能的専門性を尊重し、その創造的役割発揮の支援に徹する受入体制を確立してください。

 石川県は、震災発生時のボランティア排除の姿勢を改め、豪雨後のボランティア受入れに積極的な姿勢に転じました。しかし、県知事はボランティアを大量に「投入する」必要を痛感すると述べるなど、行政の手足として活用するために管理したいという意図が垣間見えます。ボランティアは、その語源が意味する通り、主体性を発揮して自主的に自ら定めたミッションを遂行してこそ、効果的にその役割を果たすことができます。したがって、県も被災自治体もボランティアを管理するのではなく、その活動を支援することに徹し、活動拠点や宿泊施設の整備・提供など、受入体制の確立に注力することを求めます。多重被災者に寄り添うボランティアの活動によって、被災者の生きる意欲と喜び、復興へ向けた希望が生まれることを期待します。

 ボランティアが担う役割は、対人支援における労役提供にとどまりません。多分野にわたる学術的組織や職能集団による専門的な科学的技術的支援活動、それらの専門家集団が被災地・被災集落の特性に合わせた協働の力が発揮できる共同的支援活動も重要な役割です。被災地域コミュティや被災者と密着し、地域や集落の特性を生かし、持続性のある専門的な支援活動が展開できるように、窓口を狭めることなく柔軟で揺るぎのない受け入れ体制の確立を求めます。

 また、国際的な災害被災地、被災者の交流を取り持つ民間分野の取り組みも大切です。例えば1999年台湾921地震復興に阪神・淡路大震災の経験をお伝えしようと始まった日台間の連携は、被災地・被災者がそれぞれの経験を学び、復興への新たな知恵を生み出して、地域や集落の再建に向けた希望を育むものとなっています。東日本大震災における台湾からの支援により、大震災被災者が大いに励まされたことは記憶に新しいところです。921地震では、能登半島地震同様に、過疎化傾向の著しい山間集落が多数被災しました。その経験は奥能登復興にも貴重な示唆を与えてくれるものと思います。このような被災地・被災者間の国境を超えた連携の構築は、民間ボランティアの得意分野です。国際的な視野においてもボランティアの創造的活躍が、能登半島地震被災地の復興への展望を切り拓くうえで大いに役割を発揮するものと信じます。padding

 このアピールへの幅広いみなさんのご賛同を募ります。10月13日付けで,政府,石川県,国政政党等にお届けしました。賛同募集は,必要な期間継続し,節目で賛同者名を記載して,政府や石川県に再送付するなど,2項目提案の実現を目指していきます。ご賛同いただけるかたは,ご賛同お申し出フォームにご記入の上,ご送信ください。いずれの項目も必須です。なお,お申し出を受け付けた旨,事務局より確認メールを送ります。事務局の事情により確認メール送信までお時間をいただくことがございます。

このアピールについてご質問があれば,以下のフォームよりお問い合わせください。

ご賛同者(お申し出順)(所属・肩書は,お申し出の通り)2024年10月22日18時現在

  • 岡本祥浩(中京大学総合政策学部 教授)
  • 星野輝夫(中小建設業制度改善協議会(JKの会)会長)
  • 佐藤行夫(仙台市太白区)
  • 天下みゆき(宮城県議会議員)
  • 竹内陸男(シビックプランニング研究所代表)
  • 神野武美(奈良市)
  • 日置雅晴(新宿区)
  • 中村 勉(脱炭素社会推進会議議長/日本建築士会連合会環境部会長)
  • 細川 孝(龍谷大学教員)
  • 樫原 正澄(関西大学名誉教授)
  • 中田 實(名古屋大学名誉教授)
  • 関 礼子(立教大学社会学部)
  • 関 耕平(島根大学法文学部教授)
  • 吉田邦彦(中国・広東外語外貿大学法学院・雲山特別教授)
  • 谷 誠(京都大学名誉教授)
  • 矢ヶ﨑克馬(つなごう命の会)
  • 川瀬憲子(静岡大学教授)
  • 三橋伸夫(宇都宮大学)
  • 神戸秀彦(関西学院大学教授)
  • 今井悦夫(大阪福島民商事務局)
  • 高岡 滋(神経内科リハビリテーション協立クリニック)
  • 岩佐和幸(高知大学教授)
  • 山下千佳(新建災害復興支援会議)
  • 今田隆一(坂総合クリニック宮城県認知症疾患医療センター長)
  • 岩城由里子(frontdesign)
  • 富樫 豊(npo地域における知識の結い)
  • 梶原健嗣(千葉県市川市)
  • 白田智樹(白田建築事務所)
  • 鈴木政徳(藤沢市) 
  • 鮫島和夫(NPO長崎住まい・まちづくりトラスト理事長)
  • 金田 基(宮城県議会議員)
  • 山浦靖夫(札幌市)
  • 藤𠮷勝弘(新建築家技術者集団 岐阜支部)
  • 稲地秀介(摂南大学理工学部)
  • 山田 明(名古屋市立大学名誉教授)
  • 渡邊裕美(新潟大学)
  • 山沢智樹(岩手県立大学・教員)
  • 御福英史(福岡市早良区)
  • 長友薫輝(佛教大学社会福祉学部准教授)
  • 早川 強(北海道札幌市)
  • 乾 康代(新建築家技術者集団代表幹事)
  • 高田桂子(新建築家技術者集団 東京支部)
  • 岡田成幸(北海道大学名誉教授、北海道大学広域複合災害研究センター客員教授)
  • 小澤 力(大阪府歯科保険医協会理事長)
  • 島 昭宏(JELF(日本環境法律家連盟)理事長)
  • 碇山 洋(金沢大学・教授)
  • 佐藤和宏(高崎経済大学)
  • 金淳植(福山市立大学・教授)
  • すどうゆりこ(藤沢市)
  • ふじまつもとこ(佛教大学社会福祉学部)
  • 新井康友(佛教大学社会福祉学部)
  • 沼野夏生(東北工業大学名誉教授)
  • 岡﨑祐司(佛教大学教授)
  • 島田啓子(ふじさわ・九条の会 事務局員)
  • 青栁節子(福島の子どもたちとともに・湘南の会)
  • 荒井かつ子(福島の子どもたちとともに・湘南の会)
  • 藤岡みどり(神奈川県藤沢市)
  • 宮本和則(新建京都)
  • 吉田章子(神奈川県藤沢市)
  • 井原満明(地域計画研究所)
  • 瀬尾真司(新建築家技術者集団 京都支部)
  • 石原一彦(立命館大学特任教授)
  • 甫立浩一(新建築家技術者集団 愛知支部)
  • 永井 幸(新建築家技術者集団 神奈川支部)
  • 熊谷義純(宮城県民主医療機関連合会)
  • 秋山知宏(総合地球環境学研究所・特任准教授)
  • 礒野弥生(東京経済大学名誉教授)
  • 水戸部秀利(NPOきらきら発電市民共同発電所理事長)
  • 杉原卓治(「がんばろう、日本!」国民協議会・同人)
  • 大野幸代(福岡県宗像市)