自立型コミュニティーづくりを妨げる二拠点居住推進
根拠法は改正広域的地域活性化基盤整備法
『石川県創造的復興プラン』がリーディングプロジェクトの最初に掲げるのが「復興プロセスを活かした関係人口の拡大」だ。中でも,目新しさを感じさせるのが「二拠点居住」の推進だ※。
※ 一般的には「二拠点居住」よりも「二地域居住」と記載されることが多い。また,根拠法では「特定居住」として定義されている。そのため,この記事でも,石川県の復興プラン等にかかわっては「二拠点居住」といい,一般的な説明や法律上の要件や手続きに関わる時には「二地域居住」と記載する。本来表記を統一すべきだが,ご容赦いただきたい。
その根拠となる法律が本年(2024年)5月に成立した改正広域的地域活動活性化基盤整備法だ。「人口構造の変化,経済社会生活圏の広域化,国際化の進展等の経済社会情勢の変化」に対応して,広域的な人材・物流のモビリティを高めることを目的に掲げて2007年に成立した法律である。従来は,国際会議や大規模イベントを開催できる施設を整備してインバウンドの呼び込みを図ることや,全国規模のサプライチェーンを築き先端産業の国際競争力を高める取り組みなどを「特定広域活動」と認定して,その実施や来訪者等の便益を図る拠点施設の整備を,社会資本整備総合交付金(社総交)により支援してきた。
しかしその一方で,高齢化,少子化の進展が加速する中で,地域の不均衡の拡大に歯止めをかける展望は見えてこない。特に首都圏への一極集中は深刻で,コロナ禍でテレワークが浸透したことで,一時的に人口流出傾向が見られたものの,2021年から再び増加に転じている。
他方,人口減少に苦しむ地方は,この間,移住促進対策に取り組んできた。移住希望者には空き家となった農家住宅を改修して格安で提供したり,営農指導を行うなって人口対策と農業活性化を両立させようという取り組みなど,知恵と工夫を重ねた実践は一部で注目すべき成果も生んだ。公営住宅の空き家対策を兼ねた移住希望者への提供や,「お試し居住」への活用なども各地で取り組まれている。しかし,涙ぐましい努力にも関わらず,大都市近郊を除くと地方都市の人口流出傾向を覆す勢いを築く展望を見出すことはできていない。
地方への定住促進が困難ならどうするのか。そこで登場したのが,「二地域居住の推進」である(「石川県創造的復興プラン」では前述のとおり「二拠点居住」)。「平日は都市部で働き生活し,週末は地方で田舎ぐらし」を推進しようというコンセプトで広域的地域活性化拠点整備法を改正するということになった(執筆時点では改正条文は未施行)。
改正法の3つのポイント
① 県・市町村連携による二地域居住(特定居住)推進
- 県:広域的地域活性化基盤整備計画に特定居住拠点施設+特定居住重点地区(社会資本整備総合交付金)
- 市町村:特定居住促進計画の策定/県に対する整備計画策定の提案
- 特定居住基本方針(地域の方針,求める特定居住者像等)
- 特定居住拠点施設整備
- 特定居住者の利便性向上・就業機会支援施設整備
第一のポイントは,県,市町村がそれぞれ,二地域居住を促進するための計画を策定する。法律の立て付け上は,計画立案の主体は市町村で,市町村が計画を策定して県の整備計画に二地域居住のための拠点施設と重点区域を盛り込むように提案する。県がそれに応えて整備計画に盛り込むと,社総交による支援を受けることができるようになる。
市町村の促進計画には,「基本方針」(二地域居住に向けた地域の方針および求める居住者像),整備すべき拠点施設を定め,二地域居住社の利便性向上や就業機会を支援する施設整備を進めることになる。
② 公民連携による二地域居住(特定居住)促進
- 市町村:特定居住支援法人(NPO・不動産業等)の指定+情報提供(空家・仕事・イベント)
- 特定居住支援法人:すまい・なりわい・コミュニティ支援/市町村に計画策定・変更提案
第二のポイントは,市町村がNPOや不動産業者等を募集して,二地域居住を支援する「特定居住支援法人」に指定して,その活動に有益な情報を提供して連携して二地域居住を推進するということだ。支援法人は,二地域居住で訪れた居住者のすまいやなりわい,コミュニティに馴染むことができるように支援する。また,市町村に対して自らの活動に必要な計画を「促進計画」に盛り込むように提案できることになっている。
③ 関係者連携:特定居住推進協議会設置
- 特定居住促進計画策定等に関する協議
- 想定構成員:市町村,県,特定居住支援法人,不動産業者,地域住民,交通事業者,商工会議所,農協等
第三のポイントは,二地域居住に関わる関係者の協議会を設置して,「促進計画」の内容や推進に関する協議を行いながら,地域全体として取り組む体制を築くということである。想定されている構成員は上述のとおりだが,ほとんど実績・経験がない中では,支援法人の力量に大きく左右されることになるであろう。
特定居住は,都市居住者の一時居住
——被災地再生・定住環境整備に背をむけるもの
しかし,この「二拠点居住」の推進が,リーディングプロジェクトの目玉となりうるほど復興に貢献できるのかと言えば,それはほとんど期待できない。
二拠点居住は,都市居住者の一時居住
最大の問題は,根拠法に定義された二地域居住(「特定居住」)とは,あくまでも都市居住者の一時居住だということである。第2条には次のように定義されている。
「当該地域外に住所を有する者が定期的な滞在のため当該地域内に居所を定めること」
この条文を字義どおりに解するならば,当該地域外に住所を有するのであるから,住民登録がなされるわけでもなく,住民税も負担せず,ましてはその自治体では選挙権も行使できない。その上,二地域居住を続けるか否かは,あくまでも二地域居住者の任意であって,持続性も保証されないのである。
実際に二地域居住な可能な人は,一体どれだけ存在するのだろうか。平日過ごす都市部におけるなりわいが確実に保証されていてくらしに不安がなく,かつ,就労形態も柔軟に選択できる人でなければ難しい。単身者ならまだしも,子育てしている夫婦にその条件を満たす人がどれだけいるのであろうか。主たる生計維持者は都市部で平日働きくらし,その配偶者と子どもは田園を拠点にくらすということはありえなくないが,このようなケースに単身赴任手当を支給する企業があるようには思えない。
被災地の再生にとっては,被災者が戻って生活再建できる条件を拡大し,定住環境を整備することの方がはるかに大切なのに,持続性の危うい「二拠点居住」は,それに背を向けることになりはしないと危惧するものである。
期待できない復興貢献
① 空き家の活用
二地域居住を希望する人が仮にいても,都市と田園,中山間地で二重生活をするには滞在先の確保がひとつの壁となる。旅行なら,ホテル,民宿でもよいが,生活となればそれなりの家具や生活用具も設えておかなければならないだろう。その点で考えるなら,奥能登被災地における,伝統住宅の空き家を活用して「二拠点居住」を推進できないかという発想は必ずしも突飛ではない。実際,奥能登で空き家がが多いことは従来より問題視され,自宅が損傷した被災者や,復興支援で活動する人々向けに活用できないかという指摘もなされてきた。国交省が示している関連施策(事業制度)にも空き家の活用を支援する制度が含まれている。
「空き家対策総合支援事業」
<市町村向け>
- 空き家対策基本事業:除却(特定空き家*または敷地の計画的利用が前提),活用,土地整備,フィージビリティスタディ,実態把握,所有者特定,空き家等管理活用指定法人業務
【経費負担】
-
- 除却 国2/5,市町村2/5,所有者1/5(市町村実施は国2/5,市町村3/5 代執行は国1/2,市町村1/2)
- 活用 国1/3,市町村1/3,所有者1/3(市町村実施は国1/2,市町村1/2)
- 支援法人業務 国1/2,自治体1/2
- 空き家対策附帯事業(法的手続き等),空き家対策関連事業,空き家対策促進事業
*特定空き家:危険や劣悪な状態で,放置することが不適切な空き家
<NPO・民間事業者向け:空き家対策モデル事業>
【経費負担】
-
- 調査検討等 定額補助
- 除却 国2/5,事業者3/5
- 活用 国1/3,事業者2/3
「空き家再生等推進事業」(社総交基幹事業)
- 経費負担:国1/2,市町村1/2
- 市町村が補助する場合は民間事業も補助対象
- 上記の「空き家対策基本事業」の対象経費(指定管理法人業務を除く),取得費(用地費は除く)も補助対象
被災地がこれに取り組む上での大きな制約は,国庫補助はあっても,市町村,所有者,民間事業者にも負担が発生することだ。市町村が一般財源で対応する負担いついては1/2が特別交付税で措置される(財政力指数による補正がある)から,実質的負担は1/4程度に抑えられるので,市町村が積極的に取り組むかどうかに大きく左右されることになる。しかし,留意すべきは,奥能登の被災地の場合には全市町が過疎地指定されているので,過疎地域自立促進計画に位置付けるなら,地方負担に過疎債を100%充てることができる可能性があることだ。その場合は,元利償還の70%を基準財政需要に参入されて償還期間中は余分に地方交付税が交付されるので(実質的地方負担は15%程度),その可能性を追求することが必要である。
また,活用事業の補助はあくまでも取得や改修の費用であって,維持・メンテナンス費用までは補助されない。維持・メンテナンス費用は利用者からの料金収入で賄うことにならざるをえから,フィージビリティスタディ(補助対象)で十分な稼働率が得られるかどうか事前の検討が不可欠である。果たして十分に活用できるかどうか,はなはだ心許ない。(過疎地域自立促進計画として取り組む場合,ソフト事業も過疎債充当できるとあるが,総務省にも問い合わせて精査する必要がある)
② テレワーク拠点,ワーケーション拠点整備
もう一つ,「二拠点居住」推進に関連して使うことができそうなのが,テレワーク拠点やワーケーション拠点の整備事業だ。テレワークとは,雇用先の職場に出勤せずに,インターネットなどの通信技術を活用して,自宅など職場から離れた場所で勤務することだ。コロナ禍で急速に普及し,話題となった。通勤時間を無駄にしない点でも,労働生産性の向上に寄与できた。一方,ワーケーションはまだ馴染みが薄いが,労働(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語で,休暇先で余暇を楽しみつつ,その合間に仕事もできるようにということだ。インターネット環境を完備した貸オフィスや貸会議場をリーズナブルな利用料で使えるようにすれば,「二拠点居住」推進にも役立つだろうという発想だ。
どの程度の需要があるかはわからないが,インバウンド(入込観光客数)の掘り起こしには多少の効果はあるだろう。しかし,あくまで観光業にメリットをもたらすかもしれないが,「二拠点居住」,ましては被災集落の再生に効果があるとは思えない。
私が感じる最大の問題は,この事業の認定には,集約化が前提とされていることだ。国交省の事業解説によると,居住立地適正化計画の策定がされ,都市機能誘導区域内,地域生活拠点内,立地誘導区域内であること,あるいは,都市のコンパクト化の方針と齟齬をきたさないなどの条件がある。
つまり,被災地でも,中心集落の再建整備であれば,多少は該当するかもしれないが,結局,個々の集落にはほとんどメリットがなく,逆に,自治体内の地域格差を増大させる方向に働くと考えざるを得ない。
一方,「拠点整備」という発想でどれだけの効果があるのかということも疑問である。情報網の回線品質を最大限に引き出すにはルーターと情報端末の処理能力の役割は重要で,拠点整備をと発想するのはわからなくはない。しかし,より重要なのは回線網と中継システム,サーバー性能の方だ。別の角度から言うと,回線網やサーバーの改善が拠点施設に先行されねばならず,他方,回線網やサーバーが改善されれば,それに合わせて拠点施設や端末機器もアップグレードが必要となる。だから,拠点整備は1度整備できればその後長期に効果を発揮するわけでなく,持続的かつ頻繁にアップグレードをし続けなければならない。そういう長期の運用を見込んだ支援制度ではないから,その効果には,最初から疑問視がつくのである。
過度の敵視はせずに被災者のための活用の道を探る
以上のように「二拠点居住」は,リーディングプロジェクトの目玉と言えるほどのものかと言えば,とてもそうとは言えないだろう。
しかし,ながら過度に敵視するのではなく,被災者のための活用の道を探ることも忘れてはならない。私が懸念するのは,「半島型コンパクトシティ」というわけのわからないスローガンで,結局,中心集落への集約化を図る計画が推進されることになりはしないかということだ。
東日本大震災でも,宮城県は,浜ごとの漁業集落をいくつかまとめて,移転団地に集約する比較的規模の大きな防災集団移転事業(防集)の実施を目論んだ。被災自治体も当初はそれに追随した場合もあったが,浜の反発は強烈で,漁港の集約も,やや規模の大きな防集も挫折し,結果的に,浜ごとに防集を実施することになった。しかし,計画実現に長期間を要したことから,その間に被災者の多くは離散し,防集への参加率は最大でも30%,多くは20%以下に落ち込んだ。国も事業要件を移転団地規模10戸以上から5戸以上に引き下げたから,極端な小規模防集が乱立した。石巻や女川の半島部では,1戸あたり1億円を超えるような団地さえ作られたのである。
能登半島地震被災地でも,全く同じように,集約化が意図されれば,小規模集落には支援の手が届かず,その孤立化が進む可能性は小さくない。それは何としても防ぎたいが,不幸にして小規模集落の縮退と孤立化に至った場合の支援についても考えて備えておくことは重要だろう。
仮にそのような状況に至った場合,いくつかの孤立集落の結節点となる地点に,それらの集落を支援するサービス拠点を作る必要が生じるだろう。特に冬場は,雪に閉ざされる可能性もあるから,孤立する高齢者を冬の間は拠点地区で過ごせるようなシェアハウスや医療施設,農産・水産品の直売所,巡回販売や巡回診療などのセンター,そしてコミュニティ支援員や地域包括ケアを担う人々が常駐する拠点施設が必要となりうる。そういう場合に使うことのできる事業メニューを準備することは大切で,二拠点居住関連制度も,過疎地域自立促進特別措置法と合併して活用できないか,ぜひ,研究してほしいと思うのである。