能登半島地震からの復興に向けて
排除・分断を生む支援から命,人権を守る支援に
求められる被災者支援の抜本改革
居住が確保されているか否かを元に支援,非支援を峻別する居住確保支援システムは,住まいの復興だけでなく,被災者の生活再建支援全般に著しい制約をもたらしている。住家被害の度合いに基づく罹災判定があらゆる支援の基礎とされるからである。一部損壊世帯では,税や医療費・保育料・給食費などの減免や義援金の配分も受けることができない場合が多い。善意の支援物資も,自治体の支援情報も避難所や仮設住宅に集中するから,半壊や一部損壊の在宅被災者には届かない。家が倒壊せずに残っているかどうかだけを見て、人々くらしの実態を顧みない被災者支援が被災者を苦しめている。支援の目的を居住の確保ではなく,人間らしいくらしの再建におく,被災者支援の抜本的改革が求められている。とりわけ,現在の単線型支援は,一度,支援を受けてしまうと後戻りができずに却って生活再建の足枷になる場合が多い。被災者の状況は,時事刻々変化する。被災当初に必要だと判断したことが,被災者の状況変化に対応できないことも起こりうる。トライアンドエラーを許容する柔軟なシステムが必要だ。
住家被害のみを根拠に被災者を峻別する罹災判定に支配される支援システムではなく命・人権を守ることを目的に住まい確保支援を
東日本大震災復興では,残念ながら罹災証明で被災者を分断・排除する現行システムの克服はできなかった。能登復興地震からの復興において,ぜひ抜本改革を実現してほしい,したいと思う。
ストックを活用する住まい確保支援の提案
伝統住宅の維持と住まい確保支援の両立
——修復補助付借上げシェアハウス型応急住宅
建設型応急住宅のコストは,正確なデータは得られていなが,解体撤去費用を含めると東日本大震災では概ね850万円/戸程度と見られている。おそらく能登半島地震では1,000万円/戸に迫るものと思われる。供与期間5年であると考えた場合,1ヶ月あたり17〜18万円程度となる。
それを踏まえて,修復補助を行うことを前提にして伝統住宅を借上げ,シェアハウス型仮設住宅として運用する制度の新設を提案したい(ただし,給与期間終了後の造作変更は,所有者が負担することを想定)。補助上限2,000万円,借上げ賃料年100万円,3世帯用を想定するなら,1世帯あたり経費は,給与期間3年なら21.3万円/月,同4年で16.7万円/月,同5年なら13.4万円/月。仮に給与期間1年でも1世帯あたりの総経費は700万円なので,組立型応急住宅よりはコストは低い。
所有者自身にも入居資格を付与するなら,所有者にとってもメリットは大きいだろう。費用便益的には十分合理性を持ちうると思うが,どうだろうか。
災害復興住宅融資(高齢者返済特例)の適切な活用を
最後にもう一点付け加える。住宅金融支援機構の災害復興住宅融資(高齢者返済特例),いわゆる「災害リバモ」の活用だ。「災害リバモ」に限らず災害復興住宅融資は,公的住宅再建支援制度の中で唯一,一部損壊であっても利用できる。「災害リバモ」は60歳以上の高齢者なら利用でき,融資を受けた被災者(およびその配偶者)が存命中は,融資された元金の返済が猶予され,金利のみ返済することで新築・購入した住宅,もしくは修復した住宅に居住を継続することができる。債務者が亡くなった時点で,相続人が元金を返済するか,機構が抵当権を執行することで精算するかいずれかを選択できる。「結局,借金じゃないか」という認識が,制度の軽視につながり活用を阻んでいると思う。だが,亡くなれば,債務は免除され,相続人も債務負担を免れるから,結局,災害公営住宅や民間賃貸住宅で家賃を払って居住することと現実的には変わりなく,おそらく月々の金利返済額は,災害公営住宅家賃よりも低い。
過去の活用例では,西日本豪雨の際には,倉敷市が,直接被災者ではなく,支援機構に補助を出すことで,金利を半減し,持ち家再建に顕著な効果を発揮した。これは「高齢者返済特例(倉敷型)」と呼ばれ,国立研究開発法人・建築研究所が調査レポートを公表しているので,参照してほしい(建研の報道発表はこちら)。
持ち家再建の場合のネックは,融資限度額が,建設・購入額の60%に設定されることで,40%を自己調達しなければならないこと,また,機構からの融資は,建設資金の場合は棟上げ完了時点で60%ないし80%,残りは土地・住宅の登記および抵当権設定後(購入は,移転登記および抵当権設定後)となることである。したがって,申請者はつなぎ資金の調達に苦慮することになる。倉敷型は,自己調達分を含めた金利負担を軽減し,また市が制度の周知を図ることが市中金融機関の認知度も高めてつなぎ資金調達を容易にした。
災害リバモは,建設・購入だけではなくて,補修にとっても有益である。融資限度額は,概ね土地の評価額になるが,補修工事は限度額いっぱいまで行う必要はない。少なくとも,人間らしいくらしが維持できる範囲まで修復することで,無理のない金利負担で居住継続が可能になる可能性は非常に大きい。在宅被災者の生活困窮を緩和する上で極めて有効であろうと思う。
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東日本大震災における住まいの復興検証(4)に続く