みやぎ震災復興研究センター

10年検証ブレスト(第32回)を開催しました

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東日本大震災に伴って発生した東電福島原発事故の宮城県への影響とそれへの対応を概観したうえで、今なお長期的課題として残存する放射能汚染廃棄物処理について、その対応枠組みの問題点と今後の課題を明らかにする。

テーマ:「原発事故・放射能汚染廃棄物処分枠組みの問題点と課題―宮城県の対応を中心に―」
日時:2022年10月15日(土)10:30〜12:30
開催方法:オンライン併用
報告者:鴫原敦子会員

【鴫原報告要点】

  1. 東電福島原発事故の宮城県への影響
    • 東京電力福島第一原発過酷事故による放射能汚染は広範囲に及び宮城県も例外ではなかった。県南・県北に特に集中した汚染状況は,文科省が公開した航空機モニタリング調査結果などにより確認できる。
    • 食品汚染は,事故直後から福島県及び隣県において報告されたが,宮城県では事故後2週間を経て初めて報告された。この遅れは,甚大な津波被害による測定機器の破損や行政資源の枯渇に加え,経済への影響を危惧する県の姿勢が影響した可能性がある。
    • 放射性降下物の付着による農産物汚染に加え,農地土壌,牧草地の汚染により畜産業への深刻な影響が生じた。福島県など宮城県外で出荷された肥育牛から基準値を超えるセシウムが検出されたことが発端だが,給餌された宮城県産稲藁が原因だった。その発覚に至るまで,牧草・稲藁の検査を行ってはいたが,県は結果の公表において安全性を強調する姿勢に終始した。しかし,牛肉の出荷停止を免れることはできなかった。
    • 宮城県内の森林汚染も深刻で,放射性物質循環により,その影響は,椎茸などの林産品,内水面魚種,野生鳥獣などに及ぶとともに長期化の様相を呈し,今なお基準値を超えるサンプルの検出が継続している。特に椎茸栽培への影響は深刻で縮小・廃業が進展している。
    • 放射能汚染による一次産業への被害に対し,被害農家等の賠償交渉は一定の成果を生んではいるが,風評被害を警戒して調査や出荷制限に及び腰だった県の対応の遅れにより実害が拡大し,賠償交渉にも少なくない悪影響が生じた。さらには,大量の汚染廃棄物を発生させることにつながった。
  2. 宮城県での放射能汚染廃棄物処理の経緯
    • 放射性廃棄物処理は,2011年8月制定の特措法に基づき,国が費用を立て替えて実施する事業に,地方と関係原子力事業者が協力し,事後的に原子力事業者が負担して費用を精算するという枠組みのもとで,8000Bq/kgを超える指定廃棄物は国,指定廃棄物以外は地方の責任で処理するが,いずれも発生県内において行うという方針のもとに実施されてきた。
    • 宮城県内の指定廃棄物は,浄水発生土と農林業系副産物に集中し,前者は阿武隈川から取水する白石,岩沼両市,後者は登米市で保管されている。加えて8000Bq/kg超ながら未指定の廃棄物が,角田市,栗原市,涌谷町,美里町に相当規模保管されている。一部集中保管しているものがあるが,当初2年に限るとの約束のもと一般農家の庭先に長期に渡って保管されている場合が多数存在しているのは大きな問題である。
    • 特措法による除去土壌は,汚染状況重点調査地域に指定された市町にて保管されているが,栗原・丸森以外では現場保管が圧倒的に多く,仮置き場での保管も含め,発生場所及びその近辺での保管となっている。
    • 特措法に基づき,国は各県内に汚染廃棄物の最終保管場所を設ける計画を進めるが,いずれの場合も住民の反発で挫折し,当面は,自然減衰により8000Bq/㎏以下になったものは指定解除し一般廃棄物として処理する方針をとった。これを受けて宮城県は一斉焼却の推進を図るが挫折し,自圏域(広域事務組合)内処理となった。石巻・黒川は完了,仙南は台風による一時中断の後,処理を再開,大崎では住民訴訟がおきる中,焼却処理が進められている。
    • このような状況に対し,自治体に対する調査を行ったところ,認識に温度差はあるものの,上記の諸問題が今なお継続していることへの危機感と共に国や東電の対応についての不信を読み取ることができる。
  3. 放射性廃棄物処理・処分枠組みの間題点
    • 福島事故以前からあった法体系の問題が,事故後の放射性廃棄物処理をめぐる混乱に反映している。
    • 環境関連法においては,公害対策基本法(1967)において,放射性物質への対応は原子力関連法によるとされ規制対象物から除外されたが,その後制定された個別法にも継承された。これは後継法である環境対策基本法(1993)でも継承され,環境汚染物資からの放射性物質除外が長く続いた。他方,原子力基本法(1955)を頂点とする原子力関連法は,原子力事業者の健全な育成を主眼とし,JCO臨界事故後に放射能汚染除去について初めて規定した原子力災害対策特措法においてさえ,放射性物質のサイト外への大規模な流出を想定したものではなかった。すなわち,放射能汚染除去における法的空白が続いていた。
    • この矛盾が露呈したのが東電福一事故である。2011年8月特措法にて放射性物質拡散による汚染物質と除去土壌の処理を取り決め,翌2012年原子力規制委員会設置法附則により,環境基本法の適用除外規定の削除に至る。しかし,個別法では依然として適用場外規定が残っていたため,中央環境審議会は,2012年11月,環境基本法と個別法との整合性を達成することを求めて意見具申を行った。しかし特措法が動いている状況の中では,結果として中途半端なものにとどまった。
    • 個別法で適応除外が削除されたのは,大気汚染防止法,水質汚濁防止法,環境影響評価法にとどまり,海洋汚染等防止法,土壌汚染対策法,廃棄物処理法では適用除外が続く。その結果,様々な齟齬が生じている。
      • 廃棄物処理法と特措法の齟齬:廃棄物処理法が適用除外のままであるために,放射性廃棄物の隔離保管の原則の適用除外にダウブルスタンダード。原子炉等規制法=100Bq/kg(クリアランス基準)<>特措法=8000Bq/kg(指定廃棄物)。当然に激しい批判にさらられたが,特措法施行状況検討会は今日に至るも是正せず。環境省も前者は安全な再利用の基準,後者は安全な処理の基準との詭弁で追認。
      • 土壌汚染対策法と特措法の齟齬:土壌汚染対策法は放射性汚染物を適用除外⇨特措法が適用:収集運搬・保管は施行規則があるも処分に関する施行規則は当初存在せず。処分の運用は徐々に整備。福島県内は中間貯蔵ののち県外の最終処分だったが,再資源化(公共土木構造物)の実証実験⇨無制限な拡散が危惧される。福島県外では,当面現場もしくは仮置き場に保管⇨埋立処分の実証実験へ
      • 海洋汚染防止法と国際法の齟齬:汚染物質の海洋投棄を禁じる海洋汚染防止法=放射性物質を除外。ロンドン条約(1972年)=陸上由来廃棄物の海洋投棄・洋上焼却の規制⇨1993年に放射性廃棄物の海洋投棄を禁止。1980年日本はロンドン条約を批准するも,対応する国内法整備を怠り,意図的に法的空白状態を作ってALPS処理水の海洋投棄へ。
    • 廃棄物処理枠組みの重層的問題
      • 環境法制度:環境法体系の不整合,国内法と国際法の不整合,事故対応優先の法改正見送り,「法の空白」利用,なし崩し方針変更
      • 特措法:処理基準のダブルスタンダード,責任主体の形骸化,処理負担の自治体への転嫁
      • 原子力緊急事態宣言下の例外的対応で乗り切ろうとする政府の姿勢
  4. まとめ汚染の実態,対応とその問題,課題
    • 汚染実態:被害の広域性,偶発性,不可逆性⇨大量の汚染物質・除去土壌=問題解決の長期化と課題の山積
    • 対応過程の問題:放射性廃棄物等処理における法の空白=ダブルスタンダード,責任主体の形骸化,負担の自治体・被災者への転嫁,「復興」を隠れ蓑とする例外措置の押し付け
    • 課題:汚染廃棄物・除去土壌処理=「隔離・保管」原則の確立を。放射性物質処理を視野に入れた環境法体系整備。復興検証=被害の可視化と教訓の発信

【配布資料】

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