みやぎ震災復興研究センター

『石川県創造的復興プラン(仮称)』で今脅かされる被災者の命とくらしは守れない
Picture of 遠州 尋美

遠州 尋美

みやぎ震災復興研究センター・事務局長, 東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター・事務局次長, 元大阪経済大学教授,工学博士,地域政策・地域開発(地域の自立と参加型開発)(mac.com)

Date

 『石川県創造的復興プラン(仮称)』(復興プラン)案は,杜撰で惨事便乗色が強かった骨子案から改善された印象を受ける。しかし,被災者の多くが,今,命とくらし,人権を脅かされたままなのに,復興プランは,被災者の命・くらし・人権を守ることを最優先しようという意思をしめしていない。  罹災証明で被災者を仕分けする差別・分断する支援ではなく,包摂的支援で,今脅かされている命やくらし,人権を守る支援への転換を希求したい。

発表された『石川県創造的復興プラン(仮称)』案

2024年5月20日,石川県は復旧・復興本部会議第3回会合を開催し,『石川県創造的復興プラン(仮称)』(復興プラン)案を公表した。まだ精査はできていないが,一読して安堵したのは,第2回会合で馳知事が示唆した「国防一体型復興」は,露骨な形では入らなかった。また,4月9日の財政制度審議会財政制度分科会(財政審分科会)が提起した「集中化」「集中と分散」も字面上は入らなかった。それらが入れば,被災者・被災地はもとより,県民の間にも分断・対立が持ち込まれて,収拾がつかなくなり,復旧・復興がさらに遅滞するのは避けられなかっただろう。

また,いかにも杜撰で,惨事便乗色が強かった復興プラン骨子案(以下,単に骨子案)と比較すれば,多少はましになった。特に,極めて限られた参加者であったとはいえ,被災6市町(輪島市,珠洲市,能登町,穴水町,七尾市,志賀町)に,みなし仮設入居者や2次避難者が多く滞在すると考えられる金沢市の7カ所で開催していた「のと未来トーク」で出された被災者の声を20ページにわたって掲載したのは,県レベルの復興計画では,類を見ない(これだけは評価しておきたい)。そうした被災者の声を載せる以上は,少なくとも施策表現に,それをある程度反映させなければ,収まりはつかなかったのだろう。復興プラン対象地域は石川県全域だから,相変わらず惨事便乗が払拭されているわけではないが,表現上その色合いは薄まり,被災地との密着度が増した印象がある。ただ,依然として根本的な欠陥があるのは否めない。

『創造的復興プラン(仮称)』で今脅かされている被災者の命とくらしは守れない

その重大な欠陥とは,今脅かされている被災者の命とくらしが守られないということだ。

そもそも,避難所滞在者,2次避難所滞在者,避難除外の広域避難者はもちろんのこと,在宅被災者も,応急仮設住宅(仮設住宅)に入居できた方も,その多くは今現在,命とくらしが脅かされ,人権が蔑ろにされている。仮設住宅の提供は災害救助法による救助であって,避難者であるにもかかわらず,食糧や支援物資の対象外だなどと,許されざる対応を行なっている自治体さえある。そして,公費解体や瓦礫の撤去も進まず,被災者はいつになったら生活再建に踏み出せるのか,全く見通しが立たずに不安に苛まれている。復興プラン自体が災害廃棄物の処分には来年度末までかかるとしていて,避難生活が長期に及ぶことは確実だ。それなら,復興プランの最重要課題として、避難生活と生活再建途上における命とくらし、人権の保障を掲げることが不可欠だろう。それが欠如した復興プランは復興プランの名に値しない。

そして、それを実現するには期限を区切らず、被災者の状況の変化に応じて、その時に必要とされる支援を、全ての被災者に届ける覚悟と、その手段、体制を整備することを掲げることが不可欠だ。

第二は、「見えない被災者」を可視化してその情報を支援者間で共有し、支援に必要なリソース(ひと・もの・かね)を定量的に明らかにして、それをあまねく発信することだ。それを前提にして、物理的にも、心理的にも孤立状態にある被災者のコミュニケーションを取り持って、寄り添いつつ被災者一人一人の意向を取りまとめて、ボトムアップで地域の復興像を育んでいくプロセスを踏むことが可能な仕組みを築かなければならない。残念ながら、復興プランには、そのような伴奏型システムを築く意思はみられない。

差別・分断する支援から、包摂的支援へ

 今脅かされている命やくらし,人権を守るためには,公費解体や瓦礫の処理,宅地内の給水管や排水設備等,安全と衛生環境の改善,そして保健・医療サービスの充実を迅速に実現することが,何にもまして急務となる。その障害は圧倒的なリソース不足だ。

 環境省は,公費解体のために600班編成で解体業者を送り込む方針を示しているが(国復旧・復興本部会議第5回議事概要),修復可能な伝統住宅を闇雲に解体に追い込むことは,「能登らしさ」の喪失をまねく。時間がかかっても伝統住宅を修復することが可能となる選択肢を示して,需要側からリソース不足を緩和するという道筋も重要だ。

 プレハブ仮設の提供も,全壊や半壊解体世帯に限定せず,一部損壊であっても上下水道や水回り設備の修復にめどがたつまでの間は利用できるようにするなら,発病を予防し持病悪化を防ぎ,保健・医療サービスのリソース不足を緩和し,見守り支援の効率も向上する。プレハブ仮設の利用者が増えれば、被災者の可視化も進み,被災者間のコミュニケーションの増進にも有益であり,コミュニティ再生の可能性も広がる。

 罹災証明で被災者を仕分けするこれまでの差別・分断する支援ではなく,包摂的支援を心がければ,今脅かされている命やくらし、人権を守る支援につながるはずだ。能登地震からの復興がその転換の出発点となることを願ってやまない。

※ 字面上,「国防一体型復興」が盛り込まれなかったとはいえ,「のと里山空港の拠点機能強化」はリーディングプロジェクトの重要テーマだ。各地で,空港の防災拠点機能強化が国土強靭化の重要課題となり,防災拠点機能強化の名目で,民間空港を航空自衛隊に開放する動きが進んでいる。自衛隊が来れば,米軍も来る。日米統合作戦本部が設置されたことで弾みが着いた。警戒を怠ることはできない。

More
posts