みやぎ震災復興研究センター

2024/4/9 財政審財政制度分科会の問題意識をどのように理解すべきか(3)

能登地震復興との関わりで

白米千枚田に沈む夕日
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遠州尋美

みやぎ震災復興研究センター・事務局長(gmail登録)

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一面の真実を捉えている財政審分科会の認識

ハコモノ回帰で政府債務を肥大させた失政のツケを
能登地震被災地に転嫁する財政審分科会

能登地震復興において,「集約的まちづくり」やインフラ「コンパクト化」を考慮せよという財政審分科会提起は,その1で指摘したように,東日本大震災復興の制度設計を行なった国の責任に目を瞑り,ハコモノ回帰で政府債務を拡大させた失政のツケを能登地震被災地に転嫁するもので,到底容認できるものではない。しかし,防災・減災を前面の据えつつ内実は国土要塞化を目論む「国土強靭化」や,大阪万博やIR(統合型リゾートという名のカジノ解禁),半導体産業への突出した支援が,政府債務を肥大化させて財政運営の硬直化をまねき,さらには建設設計労務単価を押し上げて民間投資を圧迫するという認識には,根拠がないわけではない。私自身十分なエビデンスを示すことはできないが,今後の検討課題を何点か指摘したい。

建設業の供給力不足の深刻度

東日本大震災時に女川町の漁業関連施設の復興整備と大規模高台住宅地整備を包含する巨大復興まちづくり事業の推進における鹿島建設の暗躍にみるように,過剰復興の元凶となった大手ゼネコンが,能登半島地震で影を潜めているのは,私たちにとっても不思議だった

※ 鹿島建設は,総合建設コンサルタント「オオバ」とJVを結成し,女川町と「女川町復興まちづくりパートナーシップ協定」を結んだUR都市機構から,CM(コンストアクション・マネジメント)方式によるインフラ整備のマネジメント業務を受託した。すなわち,宅地造成や道路・上下水道整備等における調査,測量,設計,施工に加え,関係各社との協議・進捗調整の一切を,鹿島・オオバJVが取り仕切ったのである。その事業規模は,中心市街地約220ha,離半島部14地区約55haという巨大なものだった。

万博工事の著しい遅れや,国立劇場の再整備が暗礁に乗り上げていることに象徴されるような相次ぐ入札不調や不落を見ると,財政審分科会が懸念する建設業の供給力不足はかなり深刻であると考えられる。

半導体分野政府支援の闇

半導体分野における政府支援は総額3.9兆円。TSMCに1.2兆円,国策会社ラピダスには9,200億円の国費投入だ。TSMCは補助対象経費の最大でも2分の1の補助率だが,ラピダスは国の委託事業のため大半が国費。トヨタやソニーグループの民間出資額はわずか73億円。スズメの涙でしかない。民間の冷淡さが際立つ。結局,日本企業は次世代半導体開発にそれほど期待していないということの表れではないか。

供給力不足は海外流出の結果なのか

かつて日本は,トヨタ,日産,ホンダ,マツダなどの自動車大手や,ソニー,パナソニック,東芝,日立などの家電大手を中心に,下請け企業や卸・流通業,エンジニアリングサービス,金融機関まで,関連産業の一大集積地を築くことによって,地域全体として技術革新を達成してきたことが日本企業躍進の原動力になっていた。私は,これを社会的生産基盤( Social  Structur of Production)と呼んでその重要性を強調してきた。そのため,経済成長にともなう国内の労働賃金の上昇にも関わらず,日本企業は海外進出には消極的だった。進出先で日本と同様の社会的生産基盤を構築することが極めて困難だったからである。転換点となったのは1985年のプラザ合意だった。双子の赤字に苦しむ米国経済を救済するためG5諸国が一致して自国通貨を売ってドルを買う,ドル高誘導を行なったのであるあ。その効果は目覚ましく,わずか1年で2倍の円高を引き起こした。国内生産に拘泥していた日本企業も2倍の円高には耐えられず,中国,東南アジア諸国に生産拠点を移し始めたのである。以後,日本企業の海外生産が拡大していくことになる。

日本の主要企業の世界生産規模にはそう大きな変化はない。すなわち,海外生産が増えれば,国内生産はその分縮小するという形で進んだのである。

したがって,日本がグローバル化に参入した初期にあっては,円高による体賃金労働力の活用に引かれて製造業分野の海外流出が加速し,国内集積がやせ細るという結果となった。

それでは,円安が急激に進む現在においてはどうなるのか。相対的に途上国賃金が急上昇して進出の旨みが損なわれ国内回帰が起こりうるのか。確かに製造業分野においては国内回帰が起きてもおかしくはない。しかし,反面,高速鉄道や地下鉄建設など,建設分野での大型海外受注が進展している。ドル建受注は。円安下で国内メーカーにとっては有利になる。急激な円安と,中国バブルの崩壊が,日本の生産力不足と民間投資へどうのような影響を与えるのか,慎重に見極める必要がある。

財政審分科会の問題提起は日本政府内部や,
大資本間の矛盾の表れなのか

財政審文化会の批判は,極めて広範囲の分野に及んでいる。公共事業分野では,聖域かと思われた国土強靭化や都市再生でさえ,批判的検証の必要を示唆している。それにとどまわらず産業分野の政府支援にも懐疑的だ。政府債務の膨張を容認できない財政当局の意思としては当然でもあるが,現政権の目玉政策と真っ向からぶつかる可能性も否定できない。自公に維新・国民が相乗りする保守大合同,リベラル&革新排除に流れるなら,いずれの路線が勝利しても,能登被災地は見捨てられ,国民生活の圧迫は続く。しかし,日本政府内部や,大資本間の矛盾の深化を示すものならば,つけいる隙が生まれるかもしれない。

国土強靭化,大阪万博,IR誘致,
過剰な半導体支援を転換し,
再分配を機能下させよう

能登半島地震後災害救助法が適用された4県47市町村人口は,能登地震1年前の住民基本台帳人口で見ると,4,118,058人,阪神・淡路大震災や東日本大震災をも上回って,過去最大である。確かに被害が集中したのは奥能登6市町かもしれないが,実は一時避難者を含む被災者総数は極めて大きかったという事実を忘れてはならない。それにも関わらず,復興基本法も定められず,復興財源フレームもなく,復興財源確保法も,復興財特法もない。激甚法は適用になるが,予算措置は予備費で場当たり的に手当されるだけに過ぎない。これでは,被災地は見捨てられることになる。能登地震復興でも,水面下でゼネコンが暗躍していないわけはないが,5年間で19兆円の復興費支出が約束されていた(15年間では結局32.9兆円)東日本大震災ほどの魅力は感じないのではないか。

表1 過去の災害の被災地人口
震災 避災地人口 摘要 備考
阪神・淡路大震災 3,589,126 兵庫県内被災市区1995年1月,推計人口
東日本大震災 2,576,875 被災3県特定区域市町村2010年10月1日,国勢調査
熊本地震 1,779,754 熊本県2016年4月1日,推計人口 熊本県は全45市町村に災害救助法を適用
能登半島地震 4,118,058 4県47市町村,2023年1月1日または2022年12月31日,住民基本台帳人口 災害救助法適用市町村

財政審分科会が本気で財政健全化に取り組む意思があるのなら,東日本大震災における国の制度設計を批判的に検証し,建設設計労務単価を高騰させている国土強靭化,万博,IR誘致,半導体産業への過剰な支援に歯止めをかけ,大企業の内部留保を吐き出させ,再分配が正しく機能するように雇用の安定と労働市場の秩序を回復して,内需型経済の再建へと舵を切るべきだと思う。

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